谷根千の母、森まゆみさんが著された谷中の本を読んだ感想を記します。
もともとが「谷根千」という呼称は、森さんらが発刊した地域雑誌「谷中根津千駄木」の略称です。
谷根千のひとつ、谷中は寺町であり、職人の町でもあります。
今回、ご紹介する作品は谷中の魅力を余すことなく著されていて、ちょっとしたガイドブックとしても活用できます。
わたしは生粋の谷根千っ子ではありませんが、森さん同様、この地で子どもを育てています。
近年、都市部では至る所で再開発の波が押し寄せ、昔からある街並みがなくなりつつ、あります。
谷根千育ちの娘が大人になって戻ってきても変わらない街並みが残っていて欲しい、そう願っています。
本作でも取り壊されそうになった数々の史跡や樹木を守り抜いた記述もちらほら見受けられます。
この地に暮らす人々が守り抜いてきたものをわたしたちは受け継いでいかなければなりません。
谷中スケッチブック 心やさしい都市空間とは
著者 森まゆみ
刊行年 1985年
谷中の歴史小説としても優れている記録文学
本作品は谷中を語る上で史実を基に入念に調べ上げて著されています。
この点から本作品は谷中の歴史小説の側面もある記録文学です。
一部、昔から住んでいる方からしたら「違うよ」と言われる部分もあるようですが、概ね、正確にかつ丁寧に著されています。
その点は、ご愛嬌ということで。
評価したポイント
聞き込みなどの調査力
森さん自身がお子さんをおぶって歩き回り、町の人々に聞き込みをし、一方で膨大な資料に目を通された集大成とも言うべき点です。
街並みだけでなく、谷中の人情もぎゅっと詰まった一冊。
谷根千の歴史がよくわかる
谷中だけでなく周辺の根津、千駄木、上野など各地の歴史が詳細にわかる点。
日本史を選択していなかったわたしでもTVドラマでも有名な人物や出来事と結びついている史実に思わず、驚嘆のため息がでる程でした。
例えば、遠山の金さんとか八百屋お七とか。
文人や芸術家の暮らした町
谷中は藝大や東大が近いということもあって、芸術や文学とも縁が深く、多くの著名人のエピソードが満載な点。
朝倉文夫、岡倉天心、森鴎外、正岡子規などがたしかにこの地に暮らした息遣いが。
まとめ
冒頭で谷中は寺町と書きましたが、多くの寺が徳川家康が豊臣秀吉の命で関東に来たあたりから、お寺が建立されています。
そのため、膨大なお墓も増え続け、いまでは都立谷中霊園という広大な墓地があります。
ここには数々の著名人が眠っており、先ごろ話題となったNHKの朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルとなった牧野富太郎博士のお墓もあります。
谷中霊園で数々の著名人のお墓巡りをするのも乙なものです。
墓碑に記された言葉、お墓の形状などその人を表すもの。
お墓なんてちょっと怖いよと思うかもしれませんが、日中の谷中霊園は緑も多く、穏やかな清涼な空気が流れています。
春にはお花見場所としても有名です。
職人の町でもあると書きました。
近年、後継者不足で存続が危ぶまれている伝統工芸やお店も多くあります。
谷中という土地に住まい、伝統工芸やお店の跡継ぎを育て今なお残る風景は人々の郷愁を誘うでしょう。
谷中銀座という小さな商店街がありますが、そこには代々、受け継がれてきた個人商店があります。
鈴木さんのメンチカツなどは有名で時には並ぶほど。
あなたもよかったら一度、メンチカツなどを頬張りながら本作片手に谷中散策に来ませんか。
本作は刊行年が1985年と古く随分、様変わりしたようですが、まだまだ昔ながらの街並みが残されています。
東京の下町の人情にも触れてほしいと思います。
時がどれだけ流れようとも変わらないで欲しいものがたくさん、ありますね。
ちなみに著者の森さんは谷根千に関する数々の作品を刊行されています。
これらの本もお薦めです。
現在の谷根千界隈にはお茶ができるカフェなどが点在しています。
本を片手に休み休み、散策するのにもってこいです。
いつでも遊びにお越しください。
ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。