【書評】しあわせガレット|中島久枝を読んで

わたしの本棚

もし、あなたの近所に疲れた心まで癒してくれる美味しいガレットのお店があったら?

ガレット(仏)は、フランス料理の名称。フランスでガレットは「円く焼いた料理」を意味するが、日本では特にそば粉生地を薄く焼いたブルターニュ風ガレットを指すことが多い。

ウィキペディア

本作はわたしの住む谷根千の千駄木にある小さなガレットのお店を舞台に繰り広げられる連作短編集です。
実在するお店なのかどうかは、いまのところわたしにも分かりません。

読み進めるうちに癒される短編集です。
疲れた心に一皿のガレット。

あなたにも気楽に読んで欲しい一冊。

しあわせガレットとは

タイトル しあわせガレット
著者   中島 久枝
刊行年  2023年
受賞歴  第3回ポプラ社小説新人賞特別賞

あらすじ

「店の名前はポルトボヌール。幸せの扉って意味よ」派遣契約が終わった日の帰り道、バターと砂糖の甘い香りに誘われて詩葉が見つけたのは、千駄木の路地奥にある「ガレットとクレープの店ポルトボヌール」。アンティークな雰囲気の店を一人で切り盛りするのは、赤い髪の店主・多鶴さんだ。こだわりの詰まったガレットをひと口食べて魅了された詩葉は、4日間通いつめ、雇ってもらうことに。多鶴さんの焼くブルターニュ仕込みのガレットと謎めいた常連さんに囲まれて、独身、貯金なし、彼氏なし、35歳の詩葉の新たな生活が始まる―。疲れた心をおいしく癒す、連作短篇集。

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評価ポイント

著者の中島 久枝さんはフードライターの顔ももつ

ガレットはフランスのブルターニュ地方発祥とされています。
本作に登場するポルトボヌールという小さなお店の女主人がブルターニュ仕込みのガレットを焼いてくれます。
おかず系からスイーツ系まで、さまざまなガレットが登場します。
本から香りまで漂ってきそうなくらい。

もともと著者の中島久枝さんはフードライターの経験もあるため、ガレットを焼く工程など実に詳細な描写で思わず食指が動きます。
近所にあるお店なら是非とも駆け付けたい。

食の描写がすばらしい点をまず評価します。

行きつけの店が疲れた心まで癒してくれる

各短編の主人公はポルトボヌールの常連客。
さまざまなバックグラウンドを持つ、ご近所のお客様をポルトボヌールのスタッフがそっと癒してくれます。

生きているとほんとうにいろんな出来事があり、ままならないことも多々あります。
家事や育児、仕事などに疲れたとき、ふらっと立ち寄りたいお店がポルトボヌールなのです。

疲れたら美味しいものを食べて、ついでにため込んでいる想いを口にする。
ただ、それだけでいいのです。
聞き上手なポルトボヌールのスタッフが余計なことを言わずに聞いてくれるから、疲れた気持ちがほぐれるのかもしれません。

こんなお店が谷根千にあるという設定を評価します。

ブルターニュの文化がわかる

作中、あちらこちらに仏ブルターニュについての記述が散見されます。

ブルターニュはかつて、ブルターニュ王国、そしてブルターニュ公国という独立国だった。
まず、五世紀ごろにブリトン人がやって来て住みつき、中世に三つの王国に分かれた。
その後、分割したり統合したりを繰り返し、その間にバイキングの攻撃を受けたり、フランスと戦争をしたり同盟国になったりし、
一五三二年(日本では戦国時代だ)にフランス王国に併合され、ブルターニュは州となる。

しあわせガレット

ブルターニュの文化について興味がある方は面白いかもしれません。
ブルターニュのことがわかる点を最後に評価します。

まとめ

本作は全般的にガレットともにお話が進んでいきます。
お客様一人一人のオーダーに合わせた、お皿。
その一枚一枚が絶妙にお客様にピッタリなんです。

このお店独自のルールもありながら、お客様はそれを楽しんで受け入れています。

疲れたとき、ふらっと美味しいお店に立ち寄る。
そんな経験があなたにもありませんか?

行きつけの馴染の店で自分のために作られた美味しいお料理に舌鼓を打つ。
そんな至福のひと時がだれにでもあるかもしれませんね。

ポルトボヌールはいつでも疲れたお客様を癒してくれます。
こんなお店が近くにあったらいいな。

ガレットを食べ終えた後は妙に心もスッキリ。
そんな疲れた心を癒してくれる物語です。

気楽に読める作品なので是非、お手に取っていただけると嬉しいです。
フランス文化に包まれて美味しいガレットを食べているところを想像しながら読み進めるとなお良いでしょう。

ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。

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