ボタニカ書評 朝ドラらんまんの主人公をモデルにした本

わたしの本棚

谷中に眠る植物研究者である牧野富太郎を主人公にした本作「ボタニカ」を読了して、考えたことをつらつらと書いてみます。
この拙い書評を読んでくださる、あなたが本作を手に取ってどのように受け止め、どのように感じるか。

ちょど今、NHKの朝ドラでこの牧野富太郎を主人公にした「らんまん」が放映されているので、ちょっとした牧野富太郎ブームかもしれません。
朝ドラのほうは、時間が合わなくて視聴できていませんが、本作では「好き」を生涯の仕事にした男の波乱万丈な人生について描かれています。

本作を読んでいると現代の研究者にも通じることがたくさんあります。
一研究者としての在りようを本作を通して、感じてもらえたらと思います。

わたしも本作を読み終えて、子どもの頃の好きという情熱を思い出しました。
終わり方もじつに良かった。
とくにこれから就職活動を始める方や転職を考えておられる方は、この牧野富太郎から良くも悪くも刺激をうけることとなるでしょう。

わたし自身は今一度、原点に立ち戻ろうと心しました。

人生の転機を迎えている方におすすめしたい書籍の一つです。

一方で家族小説の側面もあり、牧野富太郎を支える恋女房たちの存在はとても大きく、家族の在りよう、女性の生き方のひとつの参考にもなる優れた小説だと思いました。
賛否両論あると思いますが女性にもぜひ読んでもらいたいと思います。

『ボタニカ』とは

著者   朝井 まかて
刊行年  令和4年

あらすじ

小学校中退ながらも独学で植物研究に没頭した富太郎は、「日本人の手で、日本の植物相(フロラ)を明らかにする」ことを志し、上京。 東京大学理学部植物学教室に出入りを許されて、新種の発見、研究雑誌の刊行など目覚ましい成果を上げるも、突如として大学を出入り禁止に。

Googleより

研究では食えないと言われるのはなぜか?

本作を読んでみても一つの研究に莫大なお金がかかることが覗えます。
牧野富太郎も幼いころからの研究者魂のおかげで私費をかなり費やしています。

ましてや昔の植物学。
その必要性を当時のどれほどの人々が必要だと感じていたでしょうか?

必要で有益だと感じるものでなければ予算もつかない。
このことは現代でも同じではないでしょうか。

牧野富太郎のような熱心なパイオニアのおかげで、この分野の学問も花開き、昇華していきます。
実際に牧野富太郎が著した図鑑などありますが、これらの著作物のおかげで、わたしたちは植物の名前や構造などを知ることができました。
偉大な先駆者の大きな貢献の上になりたっているとも言えます。

一般に研究は先行研究から手をつけていきます。
先人がすでに行った研究をまずは調べてみるわけですね。
そこから自身の研究結果をもとに持論を展開していくわけです。

自分では新しい発見と思ったものでも調べてみたら、実はすでに先人が研究していたということはよくあることです。
おかげで研究テーマを選定するのも一苦労。
ここまででも相当な時間を費やします。

無論、この段階だけでは予算もつかないでしょう。
まだ誰も手のつけていない未知の領域を研究する必要があります。
しかも人類にとって有益なものを。

このように研究すると言っても色々と制約があり、予算もつきにくいといった事情から研究では食えないと言われるのではないでしょうか。

評価ポイント

わたしが評価したポイント三つを記します。

地位や名誉、お金といったものに頓着せず、好きなものをただひたすらに突き詰めていく情熱と圧倒的な行動力から気づきを得られること。
自分の仕事やライフワークへの振り返りにもなる点をまずは評価したいと思います。

どんな艱難辛苦にも根をあげず、「なんとかなるろう」と明るく前向きにとらえていく姿勢は学びたい点であること。
心配しすぎな人にとっては、この大らかさは身につけてもちょうどいいくらいのことではないかと思い、この点を評価します。
全編を通して表出する土佐弁にも、どこか懐かしいようなのんびりとした空気感を醸し出していてよかったです。

牧野富太郎を支えた恋女房たちの存在の大きさは最後に評価したい点です。
昔も今も亭主を支える女性の力はかくも大きく、この恋女房たちの存在なくしては牧野富太郎もこれほどの業績を残すことはできなかっただろうと思います。
本作は牧野富太郎が主人公である一方で、この恋女房たちも主人公であるとわたしは評価しました。

まとめ

本作は一人の実在した研究者をモデルにフィクションを交えながら、展開していくスケールのおおきな物語でした。著者の朝井まかてさんは、直木賞作家でもあります。

一方でこの偉大なる天才 牧野富太郎を支える家族の存在はすばらしく、家族小説の側面もあります。
人々が織りなす人間模様もおもしろく興味深く読ませてもらいました。

主な研究の舞台は、現在の東京大学理学部になります。
場所はわれらが谷根千の根津にあります。

まかてさんにしか描けない筆致でみずみずしく牧野富太郎が描かれており、凡人の域を超える植物愛が全編にあふれていました。

当時、植物学という学問がおかれていた状況もよくわかり、教授との人間関係などの現代のアカデミックな世界とも通じます。
これはなにも研究の世界だけではなく、一般の職場でもよくあることかと思います。
ひょっとしたら今、人間関係に思い悩んでいる方には殊更、この牧野富太郎に共感する部分も多いのではないでしょうか。

読み終えた今、好きを生涯の仕事とした牧野富太郎に一種の畏敬の念とともに、わたし自身も日々をわくわくしたまっさらな気持ちで諸事、務めようと思いました。
率直なところ、亭主としての牧野富太郎は未熟なわたしには支えきれそうもなく、このような苦労はしたくはありません。

しかし植物に対する純粋な情熱は人間としての牧野富太郎の大きな構成要素です。
本作ではとてもチャーミングで魅力的に描かれています。

あなたがここまで読んで興味を持ってくれたなら、是非一度、本作を読んで欲しいと思います。
もし朝ドラを視聴されているなら、ドラマとの比較も面白いかもしれません。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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