朝井まかて作 類 【書評】

わたしの本棚

著者の朝井まかてさんは、明治末期から昭和初期までに活躍された著名人を手掛けることを得意とされているようです。

本作「類」の主人公 森類は、かの有名な森鴎外の末子で、時代に翻弄されながらも周囲の協力を得て、生き抜きました。

その様を史実を基にフィクションとして描かれています。
本作での描写力は以前、ご紹介した「ボタニカ」にも通じるところがありました。

その類似点もぜひ、本作を読んで感じ取ってもらえたら嬉しいです。

どうしても有名なのは父 森鴎外の方ですが、偉大過ぎる父を持つがゆえの苦悩を垣間見た気がしました。
主人公を含め、登場人物の心理的描写を類の視点から描いていますが、森ファミリーの母、兄姉たちの特徴も的確に描いていると思います。

他にも自然や生き物、食べ物などの描写も秀逸です。
著者の細部にわたる描写力を最大限に評価したいと思いました。

さすがは直木賞作家です。

類とは

タイトル 類
著者   朝井まかて
刊行年  2020年8月
受賞歴  直木賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞ほか

あらすじ

明治44年、文豪・森鴎外の末子として誕生した類。優しい父と美しい母志げ、姉の茉莉、杏奴と千駄木の大きな屋敷で何不自由なく暮らしていた。大正11年に父が亡くなり、生活は一変。大きな喪失を抱えながら、自らの道を模索する類は、杏奴とともに画業を志しパリへ遊学。帰国後に母を看取り、やがて、画家・安宅安五郎の娘と結婚。明るい未来が開けるはずが、戦争によって財産が失われ困窮していく――。
昭和26年、心機一転を図り東京・千駄木で書店を開業。忙しない日々のなか、身を削り挑んだ文筆の道で才能を認められていくが……。
明治、大正、昭和、平成。時代の荒波に大きく揺さぶられながら、自らの生と格闘し続けた生涯が鮮やかによみがえる圧巻の長編小説。

引用元 集英社

類の総評


本作の特に評価すべき点三点を以下に記します。

家族に愛された類

父 森鴎外から「ぼんちこ」と呼ばれるほどに愛された類。
美しい母 志げは厳しいながらも不器用な愛を類に注いだ。

同様に兄や姉たちからも「類ちん」と呼ばれるほどに愛情を注がれた類。
結婚後も妻 美穂や子どもたちからも非常に愛されました。

森類という人がいかに家族に愛されてきたかがよくわかる一冊。
人間にとって愛なくしては生きられない、そう思うほどの愛があふれていた点を評価します。

葛藤の多かった類

偉大過ぎる父 森鴎外の末子として常に世間の注目を集めてきた類。
父や優秀な兄姉たちと比べられることの多かった類。

そんな葛藤の多い中を苦しみ、もがきながら生き抜くさまは現代を生きるわたしたちに勇気を与えてくれる点を評価します。
なかなか、志した画業や文筆業で思うようにいかないところは、現代人の仕事や家庭で抱える悩みと通じるものがありました。

最終的に類がどうなったか?
その結末にもご注目くださると嬉しいです。

各時代の背景や文化の描写が秀逸

森一家を軸に明治、大正、昭和、平成という時代を駆け抜け、その時代に生きていた人々のことがよく分かりました。
特筆すべきなのは、各時代の世間を賑わした事件や当時の文化のことも描写されている点です。

歴史で習ったことが今まさに現実のものかのごとく、読んでいて体感できる点を評価します。
過去の最大の誤りである戦争体験は当時の人々がどんな思いで、かつどんな暮らしを強いられていたかをよく知ることのできる一冊でした。

当時の食の描写、デパートやレストランといった今も実在する場所の描写も興味を持って読むことができます。
当時の文化を知る上でわたしたちのご先祖様がどのように生きてきたかも想いを馳せることができました。

まとめ

著者の朝井まかてさんは、明治、大正、昭和、平成といった各時代背景を詳細に著しています。
恐らく膨大な資料から創作されて、できあがった作品だと思いました。

おかげで本作は長編となっており、読了するのに少し時間を要します。
ただ、非常に興味深く面白い作品であるので、次が気になってどんどん読み進めてしまいました。

森一家の旧居跡は今も千駄木の地に森鴎外記念館となって、たくさんの資料とともに展示されています。

この記事を書いている七月九日は鴎外の命日で、いまも鴎外忌としてこの記念館で様々なイベントが行われています。
ぜひ機会があれば一度、森鴎外記念館に足を運んでみませんか。

本作に登場する数々の資料があり、見ごたえも十分です。
火の不始末で焼失した有名な観潮楼跡もあります。

鴎外が丹精込めて造り上げた美しい庭の片鱗も垣間見ることができます。

本作に登場する森家の人々はたしかに千駄木という地に暮らしていました。
彼らの人生がどのようなものであったかも本作で詳細に描かれています。

今もなお、森鴎外とその家族の研究はなされています。
森鴎外とその家族に興味のある方なら本作は、非常に参考になるはずです。

わたしも森鴎外の末子、森類の視点で描かれている本作を通して、森一家の一端を知ることができました。

時代に翻弄されながらも、かつ不器用ながらも精一杯、生き抜いた類。
彼を通して知る森一家と時代背景や文化は読みごたえがあります。

もし本作に興味を持たれたら、時間があるときにでもじっくりお読みいただけると嬉しいです。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
あなたの読書体験が充実したものとなりますように。

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